邦画専門

雑感。

『リズと青い鳥』 協和音と不協和音

公式サイト(http://liz-bluebird.com)

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中学時代、ひとりぼっちだったみぞれに希美が声をかけてくれた時から、みぞれにとって希美は世界そのものだった。高校三年生、2人で出る最後のコンクール、自由曲は『リズと青い鳥』。

両親を亡くし、ひとりぼっちだったリズは、青い髪の少女と出会う。少女と幸せな日々を送っていたリズは、ある日、少女が青い鳥に姿を変えるのを見てしまい、その正体を知ることとなる。少女を空に帰せば、孤独な生活に逆戻り。幸せだった日常は消えてしまう。しかしリズは、少女の幸せを考え、自らの手で幸せな日々を終わらせることを決断する。

 

童話をもとに作られたこの曲には、オーボエとフルートが掛け合うソロパートがあり、みぞれはこの物語に自分を重ね合わせた。ひとりぼっちだった私に希美が声をかけてくれた。それからの日々は幸せだった。みぞれがリズで、希美が青い鳥。「物語はハッピーエンドがいいよ」と肯定的に物語を捉える希美とは対照的に、ずっとずっとそばにいて、と希美をカゴの中に閉じ込めようとするみぞれは、少女を空に帰したリズの気持ちが理解出来ず、曲の解釈に苦悩していた。

苦悩する理由は。

それを語るには、みぞれと同じオーボエ担当である剣崎梨々花との会話を想起していただくのが手っ取り早い。

「先輩はリード(オーボエの発音体)、自作してるんですねぇ。私にもできますかね?」

「今度教える」

希美が世界そのものであり、他のことには興味関心を示さなかったみぞれが、特別親しくもない後輩にリードの作り方を自発的に教える。これは少しおかしなことだ。

そして、高坂麗奈の「先輩、希美先輩と相性悪くないですか。多分、希美先輩の演奏を信用しきれていないから」(うろ覚えなのは許して欲しい)という言葉。

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みぞれは、希美とは絶対に離れまいと独善的になるあまり、希美の気持ちに寄り添うことをしていなかった。だから希美の気持ちが欠落したみぞれの世界に、剣崎梨々花という存在が滑りこんできたのだ。f:id:hanazawaproject:20180422031407j:image

そんなみぞれに麗奈は『リズと青い鳥』のソロをトランペットとユーフォで演奏することで訴えかける。見事な協和音。演奏後、これを聞いていた吉川優子が「強気なリズって感じだった。高坂らしいね」と評するように、高坂麗奈には、リズの気持ちの解釈が出来ていることがわかる。

ますます苦悩が絶えないみぞれ。そんなみぞれを救ったのは、外部指導者である新山聡美の一言だった。

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「じゃあ、青い鳥のことはどう思う?」

「青い鳥は(飛び立つことを)拒めるはずがない。リズの気持ちを踏みにじることになるから」(うろ覚えなのはまじで許して欲しい)

リズの気持ちの理解にはさんざん苦しんだにも関わらず、青い鳥の気持ちを問われると、すらすらと出てくるみぞれ。みぞれはリズではなく、青い鳥の立場にあった。そう考えると、みぞれがリズの気持ちを理解できないのも合点がいき、冒頭の、希美がみぞれに青い羽を渡すシーンもするりと飲み込める。希美は中学時代にみぞれを吹奏楽部に勧誘したことで、みぞれの中に眠る吹奏楽の才能を開花させる機会、"翼"を与えたのだ。

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みぞれは、希美がくれた翼を無駄にするわけにはいかないとして、全体練習での『リズと青い鳥』第三楽章の演奏に繋がるわけだが、演奏を聞いた希美の心中は穏やかではなかった。自分とは比べ物にならないほどの圧倒的な才能を目の当たりにし、絶望する。言いたくもない皮肉をみぞれにぶつけ、醜い本心を吐露してしまう。しかし、それでもみぞれは自分のことを、好きだ、愛していると言ってくれる。希美も愛してるゲーム(?)のルールに則って言葉を探すが、最初に浮かんできた言葉は「みぞれのオーボエが好き」だった。無意識的に発したその言葉は、無意識だからこそ、混じり気のない自分の本心であることに気づく。みぞれのソロを完璧に支え、自分が認めるオーボエの才能を世に解き放ってあげることが、リズである希美の愛の形。

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それからの2人の日常はガラリと変わる。図書室で借りる本は楽譜と参考書になり、向かう先は図書室と音楽室。今までは希美の後を追いかけていたみぞれだが、別れ、反対方向へ進む。

それは決して決裂ではない。

「「本番頑張ろうね」」

演奏前の希美からみぞれへの一方的な投げかけだった"頑張ろう"が、下校中、初めて揃う。

それは、久美子と麗奈の奏でた協和音のように、緑輝と葉月のハッピーアイスクリームように、長い長い時を経て、確かな2人になっていく。

joint.

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聲の形』のスタッフらしいとても綿密で丁寧な人物描写。シーン、いや、カット一つ一つに意味がこめられていて、とても濃密な時間を堪能させてくれました。個人的には、図書委員の女の子がみぞれに向かって「あの、鍵閉めるんですけど」と言うカット、女の子の目が「尚」の字になっていたので、十中八九山田監督が描かれたと思うんですけど、アニメーションに対して真摯に向き合いながらも、少し悪戯っぽくて楽しそうな山田尚子が見え隠れしていたようでたいへん好みです。図書委員の子のカットは3回あったと思うのですけど、他2回は普通の目にすることで山田監督の演出をたてて下さっているので、ファンとしてはこの演出に名前がついて欲しいところです。

それから、やはり音響にも触れておかなければなりませんね。開始5分足らず、希美を待つみぞれの制服とアスファルトの階段が擦れる音に鳥肌。その後のBGMにあわせた希美とみぞれの小気味良い足音も楽しかったですね。演奏中の息遣いからも人物の持つ"迷い"や"決意"といった感情が伝わってきてエモーショナルでした。そこまでやるか、といった感じ。戦慄の域です。

ラストの"下校中"というのはとても重要な状態で、本作の学校という舞台は、進路希望調査で2羽の鳥を縛りつける檻として機能していたように思います。だから、物語は終始校内でしか展開されないし、唯一の下校シーンであるラストは、学校という檻から2羽の鳥が解き放たれるとして、とても重要なシーンなのです。このことだけ文中に組み込めなかったので、ここに記しておきます。

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リズと青い鳥』、とてもとても素晴らしい作品でした。本当に劇場でしか拾えない音が無数にありますので、公開中の観賞をお勧めします。 以上です。