『パンとバスと2度目のハツコイ』 ずっと好きでいたいから

公式サイト映画『パンとバスと2度目のハツコイ』公式サイトより

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「私をずっと好きでいてもらえる自信もないし、ずっと好きでいられる自信もない」と、独自の結婚観を持ち、パン屋で働く市井ふみ(深川麻衣)が、中学時代の“初恋”の相手・湯浅たもつ(山下健二郎)とある日偶然再会したところから物語は始まる。プロポーズされたものの、結婚に踏ん切りがつかず元彼とサヨナラしたふみと、別れた奥さんのことを今でも想い続けているたもつが織りなす、モヤモヤしながらキュンとする“モヤキュン”ラブストーリー。「初恋相手は、今でも相変わらず魅力的だぁぁぁぁあ!!」”恋愛こじらせ女子“の面倒な恋が動き出す!?「結婚」をテーマに、コミカルで人間交差点的な今泉力哉ワールド全開の恋愛群像劇が繰り広げられる終わった

 

好きでいつづけられるかわからない

 独自の結婚観を持つ市井ふみは、確かに好きでいたはずなのに、好きでいつづけられる保障はないとして、2年間付き合った交際相手のプロポーズを断っている。

 好きな相手を好きでいられる自信はないから好きな相手とは結婚できない、というのが、今作のヒロインである市井ふみのややこしいところだ。

 では、どうすれば市井ふみのこの問題は解決するのか?

 これが今作の焦点であり、ゴールであるところだ。しかし、解決策を説明するにはまず、市井ふみの人となりについて語らねばならない。

 

市井ふみの半生

 高校卒業後、美大に入学した市井ふみ。絵を描くことが好きで美大に入学したはずが、ある日、絵を描くことがつまらなくなってしまい、大学を中退してしまう。

 大学を中退してからは、アルバイト先だったパン屋に就職。午前3時半に起きる日常生活を送っている。

 緑内障を患っているが、治療によって、現在、症状の進行はとまっている。治療として、毎日1回、寝る前に目薬をさす。

 妹が一人いる。市井にこ、という。市井にこも美大に在学しており、絵を描き続けているのだが、絵を描くことが好きだったことはただの一度もないと言う。作中ではふみをモデルに人物画を描く。

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好きでいつづけるには

付き合わずに終わった相手のこと、諦めきれると思う?

 答えはNo。少なくとも市井ふみにとってはNoであった。

 偶然再開した初恋の相手を、未だに魅力的だと感じる自分がいた。それは即ち、好きでいつづけられたということだ。

 なぜ好きでいつづけられたか? "片想い"でいたからだ。

 市井ふみは湯浅たもつに片想いであるからこそ、出会ってからこれまで好きでいつづけられた。絵を描くことにしてだってそうだ。絵を描くことが好きでない市井にこの方が、好きであるふみよりも長く触れている。これは浮気までして自分を裏切った奥さんのことを、今でも想い続けている湯浅たもつにも当てはまる。

 よって、市井ふみが結婚するには、好きでいつづけるには結婚する相手には片想いでなくてはならない。しかし、市井ふみが好意を抱いていて且つ、別のところに想いを馳せていると思っているうってつけの人材が、作中には一人いる。2人は結ばれるべくして結ばれるのだ。

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たもつ「付き合おっか、俺達」

ふみ「いいよ。その代わり、好きにならないでね」

たもつ「じゃあ、やめとこ」

ラストシーン。市井ふみと湯浅たもつの会話である。

たもつ「付き合おっか、俺達」

ふみ「いいよ。その代わり、(あなたのことずっと好きでいたいから)好きにならないでね」

たもつ「じゃあ、(お前のことずっと好きだから)やめとこ」

 

緑内障

治療は1日1回、目薬をさすだけでいい。これを怠らなければ失明することはない。怠らなければ。

「恋は盲目」「不治の病」、緑内障に似ている。作中では毎日必ず1回、目薬をさすシーンがあるのだが、たもつに告白される日だけ、このシーンがない。

 

 「幸せの青い鳥」、作中では幸福の象徴とされているこの色。市井にこが、たもつに再会したふみをモデルに描いた人物画の背景の色。たもつがふみに告白した、午前3時半過ぎの朝焼けの色。このシーンにも。

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2人のこれからはきっと"幸せ"であるはず。

 

終に

こういったメタファーが作中の随所に散りばめられ、一分も気の抜けない作品となっています。しかし、市井ふみの日常をありありと描く、ほのぼのとした映画であることも間違いではないので、そういった楽しみ方もいいでしょう。間にBGMを挟む章立て構造になっているので、見易さも抜群です。何も言うことがない。素晴らしい作品だと思いました。是非観てください。